消化管グループ

診療概要

「良質・安全・高度な医療の提供」

1)消化管内視鏡検査

近年、消化管内視鏡分野は目覚ましい発展を遂げています。高性能の拡大機能を有した内視鏡の登場に加え、AI化の波も押し寄せています。当院では最新の内視鏡・システムを配備しており、専任のスタッフが食道・胃・十二指腸・小腸・大腸全般の詳細な内視鏡検査を実施しております。

主な検査の内容を下記に示します。

  • 上部・下部消化管内視鏡
  • 通常観察・スクリーニング(AI搭載)
  • 精密検査(拡大内視鏡・EUSなど)
  • 小腸内視鏡検査(ダブルバルーン内視鏡・カプセル内視鏡)

2)消化管内視鏡治療

早期消化管癌の内視鏡治療に関する御紹介を県内外のあらゆる地域より多数いただております。本邦発祥の内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection;以下ESD)をはじめ、様々な内視鏡治療手技を実施しております。特にESDに関しましては、年間約300例と中四国有数の症例数となっており、高難度症例や治療困難例も多数施行しております。ESD手技の確立に加え、当グループ独自の内視鏡創閉鎖技術の習熟により、全国平均より極めて緊急手術移行が低いという特色を有しております(当院緊急手術移行率0.08% << 全国平均0.2~0.5%)。また、高度化を見せる内視鏡治療分野では、様々な新規手技・デバイスが日々開発されております。当グループでは内視鏡専門医が最先端の内視鏡技術を提供できるよう、日夜研鑽を積んでいます。 主な治療内容を下記に示します。

  • 食道・胃・大腸・十二指腸Polypectomy/EMR/ESD
  • LECS:腹腔鏡・内視鏡合同手術
  • 内視鏡的止血術(潰瘍出血や食道静脈瘤破裂等)
  • イレウス管やステントの留置
  • 難治性出血・穿孔、瘻孔、縫合不全に対する内視鏡閉鎖
    →本邦初導入したOver-The-Scope-Clip(OTSC)や独自考案手技

内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection ; ESD)

消化管ESD総件数の年次推移

偶発症マネージメント

3)特殊専門外来

時代・地域医療のニーズに答えるために複数の特殊専門外来を開設しております。

①炎症性腸疾患外来
近年難病である炎症性腸疾患患者数は増加の一途をたどっています。新規薬剤も多数登場していますが、治療に難渋する場合も多くあります。非常に高い専門性を求められるため、専門外来を開設することで、重症例の集約拠点として尽力しております。

②便秘専門外来
高齢化を迎える本邦では、便秘症は国民病となりつつあります。便秘症はQOL(生活の質)を下げるだけでなく、様々な疾患や予後との関連が近年明らかになっています。当院では大学病院では四国初となる便秘外来を開設し、難治例の治療にあたっております。

③女性内視鏡外来
本邦の女性の部位別癌死亡数は大腸癌が第一位となっています。しかし、大腸内視鏡検査には羞恥心の壁があり、約7割の女性被験者が女性医師を希望されている現状があります。当院では大学病院では全国2番目に女性内視鏡外来を設立し、女性を大腸癌から守る取り組みを行っております。

研究概要

「アイデアを世界へ発信」

1)臨床に速結する創意・工夫による新手技の開発・報告

臨床課題を抽出し、新たな内視鏡手技開発等の様々な臨床研究を実施しています。多岐にわたりますが、その一部を下記に示します。
①粘膜下トンネル生検法
粘膜下腫瘍は、病変主座が粘膜下にあるため組織採取が困難です。そのため、粘膜下層に小さなトンネルを作成し、下層の腫瘍を実際に視認しながら確実に組織採取する方法を考案しました。アイデアのビデオ報告、Case-series study、RCT試験につなげ報告しております。正診率は、既存の超音波下針生検法35%に対し本手技は100%との有意に高い結果が得られています。この革新的な内視鏡技術が評価され、2013年欧州消化器病の主な学会で会長賞を受賞しています。

②内視鏡的創閉鎖・縫合
2013年にドイツ製内視鏡用縫合器Over-The-Scope Clip(OTSC)を本邦で初めて導入致しました。以降、創閉鎖に関する新手技の開発・報告を行っており、2022年には10年以上開発に関わってきた本邦初の内視鏡用縫合器が上市化されています。また、穿孔・瘻孔・縫合不全に対するOTSCの有用性に関する多機関共同研究を当グループ主体で実施し、四国及び全国データを集積・報告しています。内視鏡的創閉鎖・縫合に関する報告は、内視鏡領域トップジャーナル誌やレビュー論文2編を含め79編にのぼります。

③次世代内視鏡手術装置開発
学術活動を通し内視鏡分野の潮流を把握し、臨床上の課題と照らし合わせることで次世代内視鏡手術装置のアイデアを生みだしております。そして、それらアイデアを医療機器メーカーと協定を結ぶことで、開発・実験を行っています。特許出願や装置の上市化を目指し、AMEDなど開発資金確保にも尽力しております。

2)Translational research

臨床検体を用いた基礎研究を実施し、バイオマーカーの開発など基礎・臨床の橋渡し研究を実施しています。また、研究にあたり科研費やAMEDの外部資金の取得をしています。一例としては、悪性GISTと良性平滑筋腫の鑑別においてmicroRNAのクラスター解析により候補miRNAを抽出し、リアルタイムPCRにてGISTのmiR-140 familyの鑑別マーカーの可能性を見出しています。さらに、分子生物学をはじめとした基礎医学講座とのコラボレーションも進めています。

3)産学官連携プロジェクト

他学部との医工連携・地域産業との連携・県や学内の補助といった産学官連携プロジェクトを行っています。その一例を下記に示します。

新型コロナ対策機器開発

コロナ渦において。産学官連携プロジェクトを立ち上げ内視鏡用感染防御システムであるエンドバリア®を地元企業である大倉工業と共に開発いたしました。コロナ渦に内視鏡検査数の減少を防ぐために、ロードマップを立ち上げスピード重視でプロジェクトを進めました。結果として約8ヶ月の期間でエンドバリア®の商品化を達成しました。学術的アプローチとして陰圧化機能・エアロゾル拡散防止の検証試験や実臨床科学的検証試験を行い、論文報告しております。メディアや国立大学協会にも取り上げていただき、全国拡販も得られました。地方大学であっても実行力が成果につながることを示しました。

4)異分野融合研究

異分野となる臨床講座との融合研究も行っています。その代表的なものを示します。

「子宮頸がんから若年の女性を救う」世界初の子宮内視鏡プロジェクト

子宮頸癌は若年の女性がかかる可能性が高く、世界で2番目に多く発生している女性特有の癌です。子宮頸癌の早期発見には検診が非常に重要であり、前癌病変での発見は、体への負担が少なく妊孕性も保持できる円錐切除へと繋げることができます。しかし、従来の検診法(コルポスコピー)では診断困難な病変の存在や患者の羞恥心の問題があります。この問題を改善し検診を普及させて女性を子宮頸癌から救うべく、胃腸観察用の拡大機能を有した高性能の内視鏡を子宮頸癌検査へと応用させるというプロジェクトを立ち上げました。2014年より本学の周産期学婦人科学と二人三脚で研究報告を行って参りました。そして、この研究プロジェクトは令和5年度のAMED革新的がん医療実用化研究事業に採択され、香川大学が主幹となり国内の主要8機関と共に特定臨床研究を進めています。今後は専用の内視鏡の薬事承認と保険収載を目指しています。

教育概要

「全人的・国際化教育」

当グループでは、対話力を磨き、医学の楽しさが分かる人材を育成すること、卒後教育では豊かな人間性とプロ意識を持つ国際的な人材を育成することを心がけています。

1)学部教育

学習の動機付けになるように、画像・動画といったわかりやすい視覚的イメージを多く用いながら、臨床から基礎医学知識へつなげる水平統合講義を行っています。また、スキルスラボを使用した体験型実習等を通し学生と向き合い、対話力・調和性の大切さを学ぶための全人教育の場を提供しています。

2)国際化教育

留学生の受け入れをはじめ、世界人材育成のためのネットワーク構築を行っています。また、日本の内視鏡技術の国際展開のため、他国の医療圏との交流も持っております。さらに医局員においては、国際学会への挑戦なども奨励しています。

3)臨床・学術指導における屋根瓦式教育

指導医と中上級医と初級医をチームとし、臨床・学術指導における屋根瓦式教育体制を構築しています。「教え、教えられる」ことでチーム全体の成長を促進します。

4)大学院教育

講義やWebカンファレンスを通しリサーチマインドの土壌を作り、新たな価値を創造できるAcademic Physicianの育成を行っています。当科の小原英幹教授は日本消化器内視鏡学会英文誌より3年連続でBest Reviewers Awardを拝受しており、大学院生は高水準の研究指導・論文作成指導を受けることが可能です。

5)内視鏡技術指導

上級医による臨床内での内視鏡技術指導に加え、定期的なハンズオンセミナーの開催によるトレーニングの場やスキルアップの機会の提供を行っています。また、独自に考案した手技手順を定型化し普及させることにより、治療技術の均てん化にも取り組んでおります。さらに、教育指導のICT化にも取り組んでおり、NTTドコモ・OLYMPUS社と提携し、5G回線を用いた消化器内視鏡遠隔支援システムを開発中です。このシステムにより、香川県にいながら全国各地の内視鏡指導医から高度な内視鏡技術指導を受けることが可能となります。将来的に教育現場や国際交流への展開が期待されます。

スタッフ一覧

小原 英幹
科長・教授小原 英幹Hideki Kobara消化器内科
専門分野
消化器内科・特に消化管疾患(消化管悪性腫瘍の内視鏡治療)
専門医等資格
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医・指導医
日本消化管学会胃腸科専門医 ・指導医
外来診察曜日
月曜日
谷内田 達夫
講師(総合内科)谷内田 達夫Tatsuo Yachida消化器内科
専門分野
消化器内科・特に消化管疾患
専門医等資格
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医・指導医
日本消化管学会胃腸科専門医・指導医
日本ヘリコバクター学会H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
日本カプセル内視鏡学会認定医・指導医
日本病院総合診療医学会病院総合診療医
外来診察曜日
水曜日
木曜日(午前)
千代 大翔
学内講師千代 大翔Taiga Chiyo消化器内科
専門分野
消化器内科、特に消化管疾患
専門医等資格
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医
日本医師会認定産業医
外来診察曜日
火曜日
松井 崇矩
助教(内視鏡診療部)松井 崇矩Takanori Matsui消化器内科
専門分野
消化器内科 特に消化管疾患
専門医等資格
日本内科学会認定内科医・指導医
日本消化器病学会消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医
日本消化管学会胃腸科専門医・指導医
外来診察曜日
水曜日(午後)
小塚 和博
病院助教小塚 和博Kazuhiro Kozuka消化器内科
専門分野
消化器内科 特に消化管疾患
専門医等資格
日本内科学会認定内科医
日本消化器病学会消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医
外来診察曜日
火曜日(午後)
中谷 夏帆
医員中谷 夏帆Kaho Nakatani消化器内科
専門分野
消化器内科特に消化管疾患
専門医等資格
日本専門医機構認定内科専門医
日本消化器病学会消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医
外来診察曜日
月曜日(午後)
小山 裕紀子
医員小山 裕紀子Yukiko Koyama消化器内科
専門分野
消化器内科特に消化管疾患
専門医等資格
日本内科学会認定内科医
日本消化器病学会消化器病専門医
外来診察曜日
月曜日(午後)
西山 典子
臨床講師西山 典子Noriko Nishiyama消化器内科
専門分野
消化器内科・特に消化管疾患
専門医等資格
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
外来診察曜日
藤原 新太郎
客員教授(地域医療連携医学)藤原 新太郎Shintaro Fujihara消化器内科
専門分野
消化器内科、特に消化管疾患
専門医等資格
日本内科学会認定内科医
日本消化器病学会消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医
外来診察曜日

診療概要

当院の「内視鏡診療部」部門は、平成30年10月に現在の2倍の面積310m2を有する新内視鏡室として生まれ変わります。最新の電子内視鏡システムを配備した検査室5室に増床されます。最新の所見記録システムが、平成30年1月より配備され、より精密なデータ管理が可能となりました。

診療面では、消化管疾患に経験豊富な専門医が、食道・胃・小腸・大腸全般の診断と治療に携わっています。診療内容の詳細及び特色を下記に示す。

消化管疾患の診療内容
【内視鏡検査】

  • 上部・下部内視鏡
  • 通常観察・スクリーニング
  • 術前精査(拡大内視鏡・EUSなど)
  • カプセル内視鏡実施・読影
  • 小腸内視鏡検査
【内視鏡治療】

  • 食道・胃・大腸・十二指腸ESD/EMR
  • 食道静脈瘤破裂・動脈出血
  • 難治性出血・穿孔、瘻孔、縫合不全に対する全層縫合
  • LECS:腹腔鏡・内視鏡合同手術
【特色】

  • ESD治療:中四国で上位
  • 出血,穿孔,瘻孔に対する内視鏡用・全層縫合器Over-The-Scope-Clip (OTSC)による全層縫合

近年、胃腸の内視鏡は、デジタル化時代とともにめざましい発展を遂げています。毛細血管の赤血球の動きや、がんの微細な血管がみえる顕微鏡のようなカメラが開発され、‘みえなかったものがみえる’ようになりがんの早期発見が可能になっています。また、治療分野では、本邦発祥の内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection;以下ESD)という画期的な内視鏡手技で臓器を温存してなおる時代になっています。

県内外のあらゆる地域から早期消化管癌に対するESD目的に数多くのご紹介を受け、高い内視鏡技術を提供しています。治療成績は、多数の治療経験のある内視鏡専門医が、最新の拡大特殊光スコープによる範囲診断をもとにESDを行い、その一括切除率は、全国のハイボリュームセンターと遜色ない良好な成績を残しています。特に2時間を越えると予測される治療困難な病変については安全性を重んじた全身麻酔下ESDを導入しています(図1)。


[図1:吻合部残胃癌に対する全身麻酔下高難度ESD]

更に、胃間葉系腫瘍に対し、内視鏡医と外科医の合同で胃内腔からESD手技にて最小限の局所切除を行う腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS)という低侵襲治療を先駆的に行っており、経験値が高い治療手技となっています。特色をまとめると、高難度ESD、LECS、合併症時のOver-The-Scope-Clip(OTSC)システムを用いた消化管全層縫合による外科手術回避などが挙げられ、良質・安全・高度な内視鏡医療を地域に提供するという大学病院としての使命を果たすことに努めています。

研究概要

小原 英幹講師主導のもと、体表面に傷のない軟性内視鏡手術 (NOTES: Natural Orifice Transluminal Endoscopic Surgery)が全盛であった2009年から、Kagawa NOTES projectを組織的に設立し、知財・特許・工学部・微細工学センター・医学部が一同に会し、様々なデバイスの開発から商品化に進み、産学官・医工連携を展開してきました。これらの領域は、世界的にも内科・外科の枠にとらわれない新たな消化器病学として、開発から製品化まで競争し合いながら発展しつつあります。これらの潮流に遅れないように、個々が意識を持って研究した成果として、2012年APDW(Asia Pacific Digestive Week)、 2013年UEGW(United European Gastroenterology Week) にて国際学会賞を受賞しています。
当科の研究は、以下の3本柱で成り立っています。

  1. 現臨床レベルでの創意・工夫による新手技の開発
  2. 産学官・医工連携による次世代医療機器の開発
  3. 消化管癌の病態解明・バイオマーカー・創薬を目指した基礎研究

詳細は「研究活動:消化管グループ」をご覧ください。