私は1986年に香川医科大学を卒業しました。当時の脳神経内科の診療は、古典的な診断学の手法を用いて病巣部位を考え、ようやく普及し始めたMRIや脳誘発電位などの電気生理学的検査を用いて自分の考えた病巣が正しいかどうかを確認、その結果を踏まえて診断を導き出すというものでした。あれから30年が経過し、診断学を基本とした診療スタイルは不変ですが、新しい疾患概念の確立、遺伝子診断の普及、病因となる自己抗体の発見、MRIや核医学など画像診断の精度向上、神経難病に対する治療法の開発など、脳神経内科分野の進歩には目を見張るものがあります。
このような状況の中で私たちに求められることは、常に知識や技能を最新のものにアップデートし、患者さんに還元していくことであろうと思います。若い先生方には専門医の取得が最初の目標になりますが、それは自分が脳神経内科医であると自覚するための第一歩であって到達点ではありません。平昌オリンピックで2連覇を達成した羽生結弦選手やオリンピックレコードで金メダルを獲得した小平奈緒選手などは、世界の頂点に立ってもさらに次の目標に向かって努力しています。私たち脳神経内科医も、かくありたいと考えます。
香川県でも高齢化が急速に進み、パーキンソン病などの変性疾患、認知症、高齢者てんかんなどの更なる増加が予想されます。また、若い世代においては、生活スタイルの欧米化による免疫疾患が確実に増加しています。このような時代背景において、私たち脳神経内科医の果たす役割はますます重要になるものと思われます。香川大学脳神経内科では、1)common disease(よく見られる疾患)から専門性の高い疾患まで幅広く診療できる人材を育成し、地域医療の向上に貢献すること、2)日々の臨床の中から得られたテーマを大切に、大学の使命でもある研究に取り組んでいくこと、これらを目標に日々挑戦し続けたいと考えています。