わが消化器・神経内科(旧第三内科)は昭和57年4月に開講後、平成15年10月に香川医科大学は香川大学との統合を経て香川大学医学部として現在に至っています。
わたしたちの専門とする主な領域は消化器内科と神経内科です。
香川大学医学部 消化器・神経内科学の強み
- 地方大学でも十分な症例経験を有するスキルの高い臨床医を育成
- 医療機器・内視鏡手技の開発など新規性に富んだアイデアを独自の動物実験施設での検証(非臨床試験)を経て臨床応用が可能
- リサーチマインドに根ざした病気の本態を探る基礎的研究
- 数多くの県内基幹病院との密な診療提携ネットワーク
近年の消化器疾患は、ピロリ除菌による胃癌罹患率の減少、経口抗ウイルス薬によるC型肝炎の治癒により対象となる疾患群が、大腸癌、膵癌、生活習慣病関連肝疾患へと変遷しています。
我々が考える診療の第一目標は、“特色のある専門診療を掲げ、患者の命を救うこと”を目指しています。
- 消化管グループでは、高度医療機器を扱う低侵襲内視鏡治療外来、女性内視鏡外来により女性を大腸癌から守る取り組みや、ニーズの多い便秘専門外来を開設し、諸科連携による総合的診療を心掛けています。
- 肝臓グループでは、肝癌の集学的治療の強化に加えてメタボリックシンドロームが関与する非アルコール性脂肪肝炎の診療が今後の肝臓診療の中心となります。
- 膵グループでは、難治がんの膵癌に関して、新設された膵臓・胆道センターの1部門として、早期発見を目指した膵癌検診に力点を置いた仕組みの構築を目指しています。
- 内科グループでは、変性、自己免疫などを扱う神経内科専門医を充実させ、センターの開設や県西部連携機関の拠点化に取り組んでいます。
同じ敷地内にある医学部と附属病院は丘陵地帯に位置し、丘の上から眺める讃岐平野の眺望は美しく、日々の慌ただしさを一瞬忘れさせてくれます。交通の便も良く、高松市街までは車で30分足らず、またインターチェンジが大学のすぐ横にあり本四連絡橋、明石大橋にもダイレクトに接続しています。
運営方針
教育
大学病院での臨床研修では、限られた研修期間内に効率的に指導するためにできるだけバランスよく多種類の疾患を担当できるように病棟医長が配慮しており、各卒後研修医に1人の指導医がつく屋根瓦教育の体制をとり、必要な情報、知識、技能がすぐに指導できるような体制を目指しています。
また一般内科医として必要な知識を習得させる一方で、せっかく当科を選択してくれた研修医に少しでも消化器・神経内科の面白さ、奥深さを味わってもらうために検査、治療には積極的に参加、可能な限り実践してもらっています。
関連教育病院においても関連病院と統一教育プログラム(内視鏡・腹部エコー・外来・救急・宿直の週間業務)を設け、すべての卒後研修医が同じ臨床スキルが習得できるような体制を構築しています。
卒後10年の当科プログラム
卒後5年以降のビジョンを描けるように通常版と地域枠版別に卒後10年プログラムを作成しております。主な概要は、卒後8年は、十分に市中病院または大学で臨床スキルを磨いて大学院希望者は、卒後9年目から3年かけて研究に取り組み学位取得を目指すこととしております。
大学院を希望しない方にも市中病院単独コースとして地域に根差した診療医を目指せるよう自由度を設けています。
女性医師のライフイベントに合わせたサポートシステム
女性医師が働きやすいバックアップ体制を以下のように整えております。
臨床
消化器内科
当科では、消化器疾患、中でも肝疾患、消化管疾患、膵胆道疾患を対象とした診療を行っています。
私たちは、患者さん中心の温かい診療を行い、常に柔軟な対応と向上心を持って活気のある診療を目指しています。
※詳細は「診療案内:診療内容:消化器内科」をご覧ください。
内視鏡診療部
当部門は、平成30年10月に現在の2倍の面積310m2を有する新内視鏡室が完成される。最新の電子内視鏡システムを配備した検査室5室(透視付き1室含)に増床される。最新の所見記録システムが、平成30年1月より配備され、より精密なデータ管理が可能となった。県内外のあらゆる地域から早期消化管癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection;以下ESD)目的に数多くのご紹介を受け、高い内視鏡技術を提供している。治療成績は、多数の治療経験のある内視鏡専門医が、最新の拡大特殊光スコープによる範囲診断をもとにESDを行い、その一括切除率は、全国のハイボリュームセンターと遜色ない良好な成績を残している。特に2時間を越えると予測される治療困難な病変については安全性を重んじた全身麻酔下ESDを導入している。更に、胃間葉系腫瘍に対し、内視鏡医と外科医の合同で胃内腔からESD手技にて最小限の局所切除を行う腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS)という低侵襲治療を先駆的に行っており、経験値が高い治療手技となっている。内視鏡下に電気メスを握るESD手技は、外科手技同様に、緻密性、瞬発力、思考力そして決断力を求められる総合的な高度手技であり、この技術を継承していく教育面も大切にしている。特色をまとめると、高難度ESD、LECS、合併症時のOver-The-Scope-Clip(OTSC)を用いた消化管全層縫合による外科手術回避などが挙げられ、低侵襲性管腔内治療での完遂を目指している。「心のこもった(思いやりのハート)確かな技術(卓越したアート)で、治す」をモットーに、良質・安全・高度な内視鏡医療を地域に提供するという大学病院としての使命を果たすことに努めている。
※詳細は「診療案内:診療内容:内視鏡診療部」をご覧ください。
脳神経内科
当科は、神経内科分野のcommon diseaseからrare diseaseまで様々な疾患に対応可能な体制を整えています。近年では、欧米に多いとされた免疫疾患の症例数が全国的に増加しています。当科でも入院に占める免疫疾患の割合が多くなっており、その治療に積極的に取り組んでいます。また、2016年の病棟再編以降、脳外科との連携がよりスムーズになり、合理的なPET診断や脳生検などによって、これまで鑑別の難しかった脳内腫瘤病変の診断、治療が迅速に行えるようになっています。
※詳細は「診療案内:診療内容:脳神経内科」をご覧ください。
研究
消化管グループ
当グループの得意分野である医療機器開発と異分野融合研究を推進している。これらの領域は、世界的にも既存の枠にとらわれない新たな消化器病学として、開発から製品化まで競争し合いながら発展しつつあります。これらの潮流に遅れないように、個々が意識を持って研究した成果として、2012年APDW(Asia Pacific Digestive Week)、 2013年UEGW(United European Gastroenterology Week) にて国際学会会長賞を受賞しています。
当グループの研究は、以下の3本柱で成り立っています。
①産学官連携の内視鏡機器開発
感染防護具(大倉工業、YKS社)及び次世代内視鏡機器(富士システムズ社、ゼオンメディカル社、センチュリーメディカル社、オリンパス社、NTTドコモ社、マグミット製薬)に関する開発12案件を各医療メーカー8社と進めている。うち4案件は、橋渡し研究戦略的プログラム(AMED)シーズA の研究資金を獲得のうえ、機器改良を重ねつつ特許出願、上市化を目指している。
②学内医工連携による異分野融合
本学創造工学部と内視鏡分野でのSDGsの取り組みや工学技術を取り入れた新たな内視鏡診断法の開発を進めている。欧州で環境に優しいGreen Endoscopyが注目されるなか、造形・メディアデザイン科とディスポ内視鏡製品のリ・デザインのSDGs案が完了している。プロジェクトチームを発足し、本邦での先導的な活動を進めている。さらに腫瘍の3次元モデル化手法の内視鏡画像構築や本学が有するマイクロマシン技術(MEMS)を利用した消化管癌の深達度予測目的の癌硬度測定という既存の診断学にない新たなアプローチを試みている。
③子宮頸癌診断における高性能内視鏡の実装化を目指したプロジェクト
2014年より消化器内科医と婦人科医が部内融合し、消化管用途の高性能内視鏡を子宮頸癌診断に初めて応用した。これまでに内視鏡は、高精度イメージング技術による精密診断が可能であることに加え、被検者受容度の高い検査法であることを報告した。その薬機法上の適応拡大のために令和5年度AMED革新的がん医療実用化研究事業支援下に先進医療Bによる多機関共同の特定臨床研究を研究代表機関として進めている。
※詳細は「研究・業績:研究活動:消化管グループ」をご覧ください。
肝臓グループ
研究面では主に大学院生や留学生による基礎的な研究と臨床スタッフによる臨床研究に分かれています。基礎的研究では以前から行っている各種悪性腫瘍における細胞周期関連タンパクのプロテインアレイやmicroRNAアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行っています。さらに同定したmicroRNAを高発現させたトランスジェニックマウス用いて、実際にin vivoレベルで疾患の表現型を変化させるかどうかについても研究を開始しています。またウイルス性肝炎患者に対し、抗ウイルス療法により、増減するmicroRNAを同定することで、効果予測マーカーの探索、および治療難治性のウイルス肝炎患者に対する新たな治療薬の開発のための研究を行っています。さらに最近は次世代シークエンサをいち早く導入し、各種消化器癌の病期ごとの全エクソンシークエンス解析を開始しています。今後は臨床に直結する研究、すなわちトランスレーショナルリサーチを目指していく方針です。臨床研究では香川県立中央病院や日赤との共同研究として行っているNASHに関する研究や岡崎生理学研究所および三菱化学との共同研究である新規腫瘍マーカーの開発などの研究、脈管浸潤を伴う高度進行肝癌に対する放射線治療併用の動注化学療法の検討、各種慢性肝疾患におけるファイブロスキャンを用いた非侵襲的肝繊維化の評価などが進行中です。
※詳細は「研究・業績:研究活動:肝臓グループ」をご覧ください。
対応疾患
肝疾患の診断と治療
- 造影超音波を用いた肝腫瘤性病変の診断と治療
- 人工胸腹水を用いた肝細胞癌の局所治療
- 転移性肝癌のラジオ波焼灼術
- 肝細胞癌に対する肝動脈注入化学塞栓術
- 脈管侵襲を伴う高度進行肝細胞癌に対する放射線治療併用肝動注化学療法
- 肝動注化学療法
- C型肝炎・DAA製剤の治療
- B型肝炎の核酸アナログアドオンpegIFN治療
胆膵グループ
診療面では胆膵内視鏡検査・治療は約900件の検査をこなしており、全員が着実に技術の向上がみられています。特に2008年以降、積極的に行ってきたInterventional EUSは症例数が増えており、その技術は年々習熟度が上がっています。また、消化器外科とのカンファレンスも定期的に行っており、術前診断と術後診断とを照らし合わせて検討し、フィードバックを得ることで診断能力の向上にも努めています。
また、今年度から胆膵センターが設置されることになり、現在その準備中です。胆膵センターの設置により、消化器外科や腫瘍内科、放射線科と更に密接な連携が可能になると思われます。
学会活動では2題の主題演題の発表の機会を得ました。「内PD15-2. 局所進行膵癌に対する至適治療介入を目指した術前内視鏡的胆道ドレナージ術」(JDDW2022)(小林)、「WS2―2 当院における胆道病変に対する EUS-FNA の有用性の検討」(第58回 日本胆道学会)
論文ではCholecystocolic fistula closed using endoscopic therapy aloRepeated balloon inflation under low pressure may reduce serious adverse events during endoscopic papillary large balloon dilationne: A case report. Medicine (Baltimore). 2022 Jul 22;101(29)(小林)、 Effect of Aspirin on G0/G1 Cell Cycle Arrest and microRNA Signatures in Pancreatic Adenocarcinoma Cells. Anticancer Res. 2022 Aug;42(8):4037-4048. (中林)、Repeated balloon inflation under low pressure may reduce serious adverse events during endoscopic papillary large balloon dilation(鎌田)が掲載されました。
また、全国との共同研究にも積極的に参加しているだけでなく、今年度は新たにEPLBDに関する多施設共同研究を当科主導で計画しています。
今後も研究、診療ともに四国の胆膵をリードするつもりで一丸となって励む所存です。
脳神経内科
神経疾患の診断、治療、病態解明に関する研究成果は、全人類の医療の発展に寄与すること。
- 脳磁気刺激法を用いた神経機能回復訓練法の開発
- ヒトの多感覚認知機能の解明と認知症診断法の開発
- 神経変性疾患における自律神経障害の診断と治療
- 神経変性疾患における遺伝子的及び病理学的研究
- 神経変性疾患のマイクロRNA解析
- 神経変性疾患におけるバイオマーカーの検討
※詳細は「研究・業績:研究活動:脳神経内科」をご覧ください。
香川大学医学部 消化器・神経内科学の目指す未来
当科では現在各グループが診療、研究成果を精力的にまとめ、国内外の学会、論文に多数発表しています。これは決して研究偏重主義ではなく、その努力が大学病院としての機能を外部から高く評価され、紹介患者の増加、研修医および新入医局員の増加、および施設の充実につながると考えています。
その先にこそ、地方大学病院の医局の再活性化、地域住民への充実した医療提供の姿が見えてくると信じて全教室員が一丸となって努力しています。