概要紹介
診療内容
B型肝炎およびC型肝炎患者に対する治療はこの10年、毎年の様に大きな進化を遂げている。B型肝炎については、①ALT持続正常化、②HBe抗原陰性かつHBe抗体陽性、③HBVDNA増殖抑制という短期目標達成においては現在非常に強力なHBVDNA増殖抑制作用を有する核酸アナログであるエンテカビルやテノホビルが第一選択薬となっており、経口薬であるため治療が簡便であり短期的な副作用がほとんどない。また以前のラミブジンの様な耐性変異出現率が極めて低い。したがって当科で治療を行っている活動性HBVキャリアーの多くの症例において上記2剤のいずれかを用いている。若年使用例における挙児希望の際にもテノホビルはエンテカビルより安全性が高いとされており臨床現場における薬剤選択が非常に楽になってきている。但しテノホビルには長期投与にともなう低リン血症や腎機能障害に注意する必要がある。B型肝炎の最終治療目標は慢性肝不全の回避ならびに肝細胞癌発生の抑止、およびそれによる生命予後並びにQOLの改善である。この治療目標を達成するために最も有用なsurrogate markerはHBs抗原であり、抗ウイルス療法の長期目標はHBs抗原消失である。しかし核酸アナログ投与ではこの長期目標達成率が一般的に低い。テノホビルはエンテカビルよりHBs抗原消失率が高いとされているが十分に満足できる成績ではない。そこでIFN製剤の出番となる。IFN製剤は継続投与が必要な核酸アナログとは異なり期間を限定して投与する事で持続的効果を目指す治療であるが、さらに長期経過でHBs抗原が陰性化する確立が核酸アナログに比べて高い。現在ではPeg-IFNが中心的に使用されているが、従来はシーケンシャル療法としての使用が多かった。また従来は35歳以下の若年者に効果が高いとされ年齢により適応を判断していた。現在このような考え方は改められ、HBs抗原量やその他各種ウイルスマーカーにより治療効果が期待できる症例を選別して年齢によらずIFN適格であれば積極的に使用している。当科でも、シーケンシャル療法にこだわらず適応と判断した症例においてはアドオンの形でPeg-IFNを導入しHBs抗原消失において従来より良好な成績を上げており現在各症例の解析を詳細に進めている。
C型慢性肝炎患者では平成25年9月からゲノタイプ1型に対するIFNフリー、DAA(Direct Acting Antivirals)2剤併用療法であるダクラタスビル+アスナプレビルを開始した。従来のIFNを含むレジメで無効であった症例やIFN不適格、不耐容の症例においても導入し、安全にしかも高い抗ウイルス効果を確認している。さらに平成27年以降はゲノタイプ2型の難治例に対するソホスブビル+リバビリン併用療法、下のタイプ1型に対するソホスブビル+レジパスビル併用療法やオムビタスビル+パリタプレビル併用療法も開始となっている。これらの治療はわずか12週で治療期間が終了するレジメで、SVR率が95~100%と非常に強力な治療法である。平成28年度にはゲノタイプ2型に対しても、オムビタスビル+パリタプレビル+リバビリンの16週投与が可能となり、2型の腎機能低下例にも、DAA治療の適応が拡大してきた。一方で、いくつかのレジメにおいては耐性ウイルスの問題が残ってきている。すなわち治療に失敗した場合に多剤、高度耐性のウイルスが残り、以降の治療薬でのレスキューが困難となることが問題視されている。今後は複数の治療レジメの中から、耐性ウイルスをできるだけ作らない治療戦略を建てる技量が肝臓専門医に問われている。平成28年度以降には、HCVの変異型ウイルスに対してもグラゾプレビル+エルバスビル、また平成29年にはグレカプレビル+ピブレンタスビルが適応となり、今後より一層DAAによる治療が拡大していく可能性が高い。今後はDAA製剤で治療したのちの肝発癌抑制効果についても当科の全症例で検討していく予定である。いずれにしてもC型肝炎に対する抗ウイルス治療がほぼ完成型に近づいた感があり近い将来においてはrare diseaseになる事が予想されている現状である。
肝細胞癌の治療については肝外転移を伴ったChild-Pugh A患者では分子標的治療薬であるソラフェニブ、またその無効例に対してはレゴラフェニブが導入されるようになった点である。本薬剤ではCR,PRは少なく、ほとんどがSDとなり、副作用が強い点が特徴であり、その使用においては十分な注意が必要である。局所治療に関してはRVS(realtime virtual sonography)や造影超音波を用いた治療を行っている。現在のところ通常の超音波検査では観察が困難な場所に位置する腫瘍に対してRVSを用い人工胸腹水を作成することにしている。また、ソナゾイドによる造影超音波についてもその後継続して使用し、有効性に関するデータを集積中である。進行肝癌に対しては肝動脈塞栓術、動注療法を行っているが、使用する抗がん剤については従来のシスプラチン(アイエーコール)に加えて、新しいシスプラチン微粉末であるミリプラチンが導入された。この薬剤はリピオドールで溶解しての動注が認められた初めての薬剤であり、リピオドールへの溶解が極めて容易で投与しやすく、また腎障害などの副作用が少ないことが特徴であり、個々の症例に合わせて適宜シスプラチンとミリプラチンを使い分けている。また、最近ではDrug-eluting beads-trasarterial chemoembolization (DEB-TACE)を5㎝以上のの巨大な肝細胞癌に対し、積極的に行っている。さらに、当科における肝細胞癌治療において特筆すべきは門脈腫瘍栓など脈管浸潤を伴うような進行肝癌に対する放射線療法を併用したリザーバー動注療法である。レジメンとしてはNew FP療法を使用している。2009年以降当科では50症例近くNewFPをレジメンとしたリザーバー動注を行い、門脈腫瘍栓や肝静脈腫瘍栓を伴う様な症例に対して従来は有効な治療手段がなかったが、当科ではすでに36症例にリザーバー動注+腫瘍栓に対する放射線治療を施行し高い奏効率が得られておりCR例も見られ予後も有意に延長している。肝細胞癌に対する治療方針は診療ガイドラインに基づいて決定しているが、肝障害度Cに対する救済手段として、消化器外科の協力の下、摘脾術(HALSを含む)を行い、肝予備能の改善を図った上でさらに治療を進めていく当科独自のガイドラインを作成している。
研究内容
研究面では主に大学院生や留学生による基礎的な研究と臨床スタッフによる臨床研究に分かれている。基礎的研究では以前から行っている各種悪性腫瘍における細胞周期関連タンパクのプロテインアレイやmicroRNAアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行っている。さらに同定したmicroRNAを高発現させたトランスジェニックマウス用いて、実際にin vivoレベルで疾患の表現型を変化させるかどうかについても研究を開始している。またウイルス性肝炎患者に対し、抗ウイルス療法により、増減するmicroRNAを同定することで、効果予測マーカーの探索、および治療難治性のウイルス肝炎患者に対する新たな治療薬の開発のための研究を行っている。さらに最近は次世代シークエンサをいち早く導入し、各種消化器癌の病期ごとの全エクソンシークエンス解析を開始している。今後は臨床に直結する研究、すなわちトランスレーショナルリサーチを目指していく方針である。臨床研究では香川県立中央病院や日赤との共同研究として行っているNASHに関する研究や岡崎生理学研究所および三菱化学との共同研究である新規腫瘍マーカーの開発などの研究、脈管浸潤を伴う高度進行肝癌に対する放射線治療併用の動注化学療法の検討、各種慢性肝疾患におけるファイブロスキャンを用いた非侵襲的肝繊維化の評価などが進行中である。
スタッフ一覧
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